自宅とは別に所有している空き家は、固定資産税や管理コストがかかる一方で、放置すれば老朽化や近隣トラブルの原因にもなりかねません。しかし、この「負の遺産」ともなり得る空き家を、老後の生活を支える貴重な介護・老後資金へと変えることができます。
空き家を資金化する方法として、大きく分けて「売却」と「賃貸」の二つの選択肢があります。どちらがご自身の状況や目的に合っているか、資金面、手間、将来性など、多角的に比較検討することが重要です。
この記事では、空き家を売却した場合と賃貸に出した場合のメリット・デメリット、そして資金計画における重要な視点について解説します。
1. 空き家を「売却」してまとまった資金を得る
空き家を売却する最大の魅力は、一度にまとまった現金(売却益)を得られる点です。これは、介護施設への入居一時金や、老後の生活資金を一気に確保したい場合に最も有効な手段と言えます。
【売却のメリット】
- 即座にまとまった資金化が可能
- 老後の大規模な出費(介護費用、リフォーム費用など)に対応できます。
- 管理の手間と費用が一切なくなる
- 固定資産税、都市計画税、火災保険料、修繕費、草刈りなどの管理の手間とコストから完全に解放されます。
- 売却に関する特例の適用可能性がある
- 居住用財産の譲渡所得の特別控除(3,000万円控除)や、相続した空き家に関する特例など、要件を満たせば税制上の優遇措置を受けられる可能性があります。
- 将来的な価格下落リスクを回避できる
- 特に地方の空き家は、今後も市場価値が下落していく可能性が高いため、早めに売却することで、最も価値の高い時点で資金化できます。
【売却のデメリット】
- 売却後に追加の資金は発生しない
- 得られるのは一度きりの資金で、それ以上の定期的な収入は見込めません。
- 売却にかかる費用と税金
- 仲介手数料、印紙税、測量費用、そして譲渡所得税(売却益が出た場合)などの費用が発生します。
- 市場の状況に左右される
- すぐに買い手が見つからない場合や、希望価格で売れない可能性があります。特に古い空き家や立地が悪い物件は、売却までに時間がかかることがあります。
【売却のチェックポイント】
- 特例の活用: 「空き家に係る譲渡所得の3,000万円特別控除」など、適用条件を必ず不動産会社や税理士に確認しましょう。
- 買取保証: 不動産会社に買い取ってもらう「買取」サービスを利用すれば、仲介よりも価格は下がるものの、確実に早く資金化できます。
2. 空き家を「賃貸」に出して継続的な収入を得る
空き家を賃貸に出す最大のメリットは、毎月安定した家賃収入が得られる点です。これは、公的年金に上乗せする「第二の年金」として、老後の生活費の足しにしたい場合に適しています。
【賃貸のメリット】
- 継続的な家賃収入
- 毎月決まった額が振り込まれるため、日々の生活費や介護サービス費用の支払いに充てることができ、資金計画が立てやすくなります。
- 資産を保有し続けられる
- 将来的に売却することも、自己利用することも可能です。特に、将来的に地価が上がる可能性がある地域であれば、資産価値の上昇に期待できます。
- 節税効果
- 不動産所得(家賃収入)に対しては、固定資産税や修繕費、管理委託料などの経費を差し引くことができます。また、賃貸に出すためのリフォーム費用も経費として計上できます。
【賃貸のデメリット】
- 管理の手間とコスト
- 入居者募集、賃貸契約の締結、家賃滞納への対応、設備の修理・交換など、様々な管理業務が発生します。管理会社に委託する場合、家賃の5~10%程度の委託料がかかります。
- 空室リスク
- 入居者がいない期間は収入がゼロになり、ローンの返済や固定資産税の支払いだけが続くリスクがあります。
- 修繕費用と予期せぬ出費
- 給湯器の故障、水漏れなど、突発的な高額な修繕費用が発生することがあります。
- 借地借家法の制限
- 一度賃貸に出すと、オーナー都合で簡単に退去してもらうことはできません。将来、ご自身やご家族が住みたいと考えている場合は、「定期借家契約」などの形態を検討する必要があります。
【賃貸のチェックポイント】
- 管理会社の選定: 信頼できる管理会社を選ぶことが、賃貸経営の成功の鍵となります。
- リフォーム: 築年数が古い場合、入居付けのために一定のリフォーム(水回り、内装など)が必要となるケースが多く、初期費用がかさみます。
3. 売却と賃貸の比較:どちらを選ぶべきか
空き家を「売却」と「賃貸」のどちらの形で資金化すべきか、判断のポイントを比較表にまとめました。ご自身の資金ニーズと空き家の状況を照らし合わせてみてください。
| 比較項目 | 売却(まとまった資金化) | 賃貸(継続的な収入化) |
|---|---|---|
| 資金の得方 | 一時金(まとまった額) | 定期収入(毎月) |
| 資金の使い道 | 入居一時金、ローン一括返済、大規模な介護費用 | 日々の生活費、毎月の介護サービス費用 |
| 管理の手間 | なし(売却完了後) | あり(管理会社への委託が必要) |
| リスク | 売却価格の下落、売却できないリスク | 空室リスク、修繕リスク、家賃滞納リスク |
| 即金性 | 高い(買主が見つかれば比較的早い) | 低い(リフォーム、入居者募集の期間が必要) |
| 税制 | 譲渡所得税(特例あり) | 不動産所得税(経費計上可能) |
| 適している方 | すぐに多額の資金が必要な方、管理が一切面倒な方、空き家が遠方にある方 | 安定的な副収入を得たい方、老後の年金に不安がある方、ある程度の管理の手間を受け入れられる方 |
【判断のポイント】
- 資金の緊急度と総額:
- 介護施設への入居など、数千万円単位のまとまった資金がすぐに必要な場合は、迷わず売却が最優先です。
- 年金にプラスして月々数万円の安定収入が欲しい場合は、賃貸が適しています。
- 空き家の立地と状態:
- 築年数が古い、大幅なリフォームが必要、地方で需要が見込めない場合は、賃貸経営はリスクが高いです。売却を検討しましょう。
- 都心や駅近など、賃貸需要が高いエリアの空き家は、賃貸で継続的な収益化を図る方が得策な場合があります。
- ご自身の体力・判断能力:
- 賃貸経営には、管理会社との連携、突発的な問題への対応など、一定の判断力や労力が必要です。ご自身の体力や健康状態に不安がある場合は、売却し、完全に手放す方が安心です。
4. 資金化を成功させるための具体的な手順
空き家の資金化は、その後の老後生活に大きく影響します。以下の手順で慎重に進めましょう。
ステップ1:現状の把握とゴール設定
まず、空き家の査定(売却価格、想定家賃)を行い、現在の資産価値を把握します。その上で、「老後資金としていくら必要なのか」「その資金を一括で使うのか、毎月使うのか」というゴールを明確にします。
ステップ2:不動産会社への相談とシミュレーション
査定結果とゴールに基づき、売却と賃貸の両方に強い不動産会社に相談します。
- 売却シミュレーション: 売却価格から税金、仲介手数料などの諸費用を引いた手取り額を算出。
- 賃貸シミュレーション: 想定家賃から管理費、固定資産税、修繕積立金などの経費を引いた月々の手取り額を算出。
ステップ3:税理士への相談(最重要)
売却・賃貸のどちらを選んでも、税金対策は不可欠です。特に売却益にかかる譲渡所得税は高額になりがちです。税理士に相談し、利用可能な特例がないか、また最適なタイミングや手続きについてアドバイスを受けましょう。
結びにかえて
空き家の資金化は、老後の不安を解消する「切り札」となり得ます。判断を誤らないためには、感情ではなく冷静な資金計画に基づいて、売却と賃貸のシミュレーションを行い、信頼できる専門家(不動産会社、税理士)のアドバイスを得ることが重要です。空き家を賢く活用し、安心できる老後を築いてください。
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