賃貸経営は、安定した収入源となり得る一方で、税金や確定申告といった専門的な知識が不可欠です。適切な税務処理を行うことで、節税効果を高め、より健全な経営を目指すことができます。
この記事では、賃貸経営で知っておくべき税金の種類、確定申告の基本、そして経費にできるものなど、基礎的な知識をわかりやすく解説します。
1. 賃貸経営でかかる主な税金の種類
賃貸経営においては、主に以下の4つの税金が関連してきます。
| 税金の種類 | 概要 | 課税対象 | 申告・納付のタイミング |
|---|---|---|---|
| 所得税 | 賃貸収入から経費を差し引いた不動産所得に対してかかる国税。 | 不動産所得 | 確定申告(原則翌年2月16日~3月15日) |
| 住民税 | 所得税の計算と同様の不動産所得に対してかかる地方税。 | 不動産所得 | 確定申告を基に自治体から通知(6月以降) |
| 固定資産税 | 所有する土地や建物(固定資産)に対してかかる地方税。 | 固定資産の所有者 | 年4回の分納または一括納付 |
| 都市計画税 | 市街化区域内の土地・建物に対してかかる地方税(固定資産税と合わせて納付)。 | 市街化区域内の固定資産の所有者 | 年4回の分納または一括納付 |
このうち、所得税と住民税は、毎年行う確定申告を通じて納付額が決定されます。
2. 不動産所得の計算方法
確定申告で申告する不動産所得は、以下の計算式で求められます。
$$\text{不動産所得} = \text{総収入金額} – \text{必要経費}$$
2-1. 総収入金額(家賃収入など)
賃貸経営における「総収入金額」には、以下のようなものが含まれます。
- 家賃・地代
- 共益費・管理費
- 礼金・更新料
- 敷金・保証金のうち返還しない部分
- 自動販売機などの設置料収入
2-2. 必要経費
不動産所得を計算する上で最も重要となるのが、収入を得るためにかかった必要経費です。経費を漏れなく計上することで、課税対象となる所得を減らし、節税につながります。
経費として認められる主な項目は以下の通りです。
| 経費の項目 | 具体的な内容 | 留意点 |
|---|---|---|
| 減価償却費 | 建物などの購入費用を耐用年数に応じて毎年経費化するもの。 | 実際に現金の支出を伴わない経費。 |
| 固定資産税・都市計画税 | 毎年課税される不動産保有にかかる税金。 | 納付書が届いた事業年度で経費計上。 |
| 損害保険料 | 火災保険や地震保険などの保険料。 | 長期契約の場合、期間に応じて按分。 |
| 修繕費 | 建物の維持・管理や原状回復にかかる費用。 | 資本的支出(資産価値を高める改良)との区別が必要。 |
| 管理委託費 | 不動産管理会社に支払う管理手数料。 | |
| 借入金利子 | ローンで物件を購入した場合の支払利息。 | 元本部分は経費に含まれない。 |
| 通信費・交通費 | 不動産経営に必要な電話代、ガソリン代など。 | 事業用とプライベート用の按分が必要。 |
| 税理士報酬 | 確定申告などを依頼した税理士への支払い。 |
特に減価償却費は、帳簿上の経費でありながら現金の支出を伴わないため、キャッシュフローを残しつつ所得を圧縮できる最大の節税効果を持つ経費項目と言えます。
3. 確定申告の基本
賃貸経営で不動産所得が発生する場合、原則として確定申告が必要です。
3-1. 青色申告と白色申告
確定申告には、「青色申告」と「白色申告」の2種類があり、青色申告の方が、より多くの特典(節税メリット)を受けることができます。
| 項目 | 青色申告 | 白色申告 |
|---|---|---|
| 事前の届出 | 必要(開業届と青色申告承認申請書) | 不要 |
| 記帳方法 | 複式簿記(原則)または簡易帳簿 | 単式簿記(簡易帳簿) |
| 青色申告特別控除 | 最大65万円または10万円の控除あり | なし |
| その他の特典 | 損失の繰り越し控除、青色事業専従者給与など | なし |
賃貸経営の規模が事業的規模(例:アパート1棟、または戸建て10棟以上)と認められる場合、複式簿記での青色申告を行うことで、最大65万円の青色申告特別控除を受けられるなど、大きな節税効果が期待できます。
3-2. 損失(赤字)が発生した場合
賃貸経営が赤字(不動産所得がマイナス)になった場合、青色申告、白色申告ともに、原則としてその赤字を他の所得(給与所得など)と相殺することができます。これを損益通算と言います。
ただし、土地取得にかかる借入金利子は、損益通算の対象外となる点に注意が必要です。
また、青色申告を選択している場合、損益通算しきれなかった赤字を翌年以降最大3年間にわたって繰り越して、将来の黒字と相殺できる損失の繰越控除という特典もあります。
4. 賃貸経営に関わるその他の税金
4-1. 不動産取得税
不動産取得税は、売買・贈与・新築などで不動産を取得した際に一度だけかかる地方税です。
- 課税標準:固定資産税評価額
- 税率:原則4%(宅地や住宅などについては軽減措置あり)
4-2. 消費税
賃貸経営における居住用物件の家賃は非課税です。しかし、事業用物件の家賃や、駐車場、テナントの賃料、管理会社への手数料などは消費税の課税対象となる場合があります。
- 居住用家賃:非課税
- 事務所・店舗の家賃:課税対象
5. 確定申告の必要書類と流れ
確定申告は、毎年2月16日から3月15日までの間に行います。主な必要書類と流れは以下の通りです。
5-1. 必要書類の例
- 源泉徴収票(給与所得がある場合)
- 不動産に関する帳簿(総勘定元帳、仕訳帳など)
- 不動産収入に関する書類(家賃入金記録など)
- 必要経費に関する領収書や請求書(固定資産税納付書、修繕費の請求書など)
- 減価償却費の計算資料
- 借入金の残高証明書(利息の確認)
- 社会保険料、生命保険料などの控除証明書(個人の控除用)
- マイナンバーカードまたは通知カードと身分証明書
5-2. 確定申告の流れ
- **帳簿の作成・整理**:日々の取引を記録し、不動産所得の計算に必要な帳簿を作成します。
- **不動産所得の計算**:総収入金額から必要経費を差し引いて不動産所得を算出します。
- **所得税額の計算**:不動産所得とその他の所得(給与所得など)を合算し、各種所得控除(基礎控除、配偶者控除など)を差し引いた課税所得金額に対して税率をかけて所得税額を求めます。
- **申告書の作成**:国税庁のe-Tax(電子申告)または確定申告書等作成コーナーを利用するか、税務署で申告書を作成します。
- **申告・納付**:期間内に税務署に提出し、所得税を納付します。
まとめ
賃貸経営における税金は多岐にわたりますが、最も重要なのは確定申告で不動産所得を正確に計算することです。特に青色申告を活用し、減価償却費をはじめとする必要経費を漏れなく計上することが、合法的な節税の鍵となります。
確定申告や複雑な税務処理に不安がある場合は、税理士などの専門家に相談することも有力な選択肢です。適切な知識と準備をもって、安定した賃貸経営を目指しましょう。
コメント